特許で保護された素材の製造技術をもとに国内外の大企業と協業
LIMEXは、日本のスタートアップである株式会社TBM(以下、「TBM」)が展開する環境配慮型の新素材で、紙やプラスチックの代替として注目を集めている。TBMは2011年の創業以来、「100 年後でも持続可能な循環型イノベーション」というビジョンを掲げ、石灰石を主原料とするこの素材を開発してきた。紙の代替としては森林資源や水の使用を抑え、プラスチックの代替としては石油依存を減らすことで、環境負荷を少なくしている。スタートアップでありながら国内外の投資家や大企業と連携し、素材開発からリサイクルまで一貫した事業体制を整えてきた点が特徴だ。
LIMEXの開発は、もともと台湾製のストーンペーパーを日本に輸入販売していたことがきっかけで始まった。創業者の山﨑敦義氏は、木材や水を使わずに作れる点に可能性を感じつつも、既存のストーンペーパーは重さや品質、価格の面で課題が多く、日本市場での普及には適していないと考えたという。そのため、山﨑氏は日本製紙の元専務の協力も仰ぎながら、石灰石を主原料とした新素材の研究開発を始めた。そして、日立造船などの製造パートナーとも協力しながら、軽くてコストを抑えた加工しやすい新素材としてLIMEXを生み出した。開発の過程では経済産業省やNEDOなど公的機関の支援も受け、スタートアップとしては異例のスピードで素材化を進めた経緯がある。
この素材の特長は、主原料の50%以上を炭酸カルシウム(石灰石の主成分)などの無機物が占めていることにある。石灰石は地球上で豊富に存在し、日本でも自給できる資源で、採掘や輸送の環境負荷が比較的低いとされる。製造過程では紙に比べて水をほとんど使わず、プラスチックに比べて石油依存を大幅に減らせるため、CO₂排出削減や資源保全の面で優れた選択肢となっている。TBMでは、リサイクル性も高くなるよう、使用済み製品を回収して再びLIMEXや別の樹脂製品に加工する循環の仕組みも整えている。
LIMEXを使った製品は多岐にわたる。名刺やカタログといった印刷物から、食品容器やショッピングバッグ、ホテルのゴミ袋まで幅広い用途に広がっており、ロック・フィールドという惣菜店の容器やグローリーの投票用紙など大手メーカーとの共同開発品も登場している。海外でも化粧品ブランドKENDOの容器への導入など、事例が増えている。このように、LIMEXはその環境面の付加価値が広く認識され、これまでに10,000以上の企業や自治体に採用されてきた。
LIMEXのこうした広がりを支える一つの要因に、TBMの積極的な知財戦略がある。TBMはLIMEXに関する基本特許を日本を含む40か国以上で取得し、製造方法や配合技術を保護している。この知的財産をもとに、自社工場に加えて国内外の製造パートナーにもライセンスを供与し、生産を広げている。スタートアップでありながら、自前で大型工場を複数持つのではなく、パートナーとの協業を通じて短期間で実績を積み上げ、事業を拡大してきた。宮城県の白石や多賀城に構える工場と、海外の委託先を活用することで、安定的な供給体制を築いている。
こうした取り組みを積み重ねた結果、TBMは創業から10年余りで未上場企業としての評価額が1000億円を超え、国内ユニコーン企業のひとつと見なされるまでになった。グッドデザイン賞のベスト100や特別賞[ものづくり]や経済産業省による「知財功労賞」など、国内外での評価も多数獲得しており、素材の革新性や知財戦略の巧みさが高く評価されている。累計の資金調達額も200億円を超え、伊藤忠商事や韓国SKグループといった大手企業との提携を通じて、事業基盤を一層強化している。
今後は、カーボンリサイクル技術を取り入れた低炭素型の新素材の開発など、さらなる資源循環技術の開発が加速しそうだ。アジアや中東を中心に海外工場の展開も進んでおり、現地パートナーとの連携を通じた市場拡大が期待される。紙やプラスチックの代替という大きな市場に挑むLIMEXは、環境配慮と経済性を両立した日本の新たな素材としてさらに有名になっていきそうだ。