「5つの調達原則」を掲げ、農業支援をも行う持続可能なカカオ生産
チョコレートの原料カカオの主な生産地である西アフリカ、特にガーナやコートジボワールでは、世界のチョコレート原料の約70%がこの地域でつくられているのに、農家の多くは1日1~2ドルしか収入がなく、彼らの多くが極度の貧困に苦しんでいた。また、その地域で暮らす子どもたちは学校に通えず、人権上問題のある形で働かされるケースが後を絶たない状況も続いていた。
「トニーズ・チョコロンリー」は、「チョコレート業界から労働搾取をなくす」という壮大なミッションを掲げるオランダ発のチョコレートブランドだ。見た目はカラフルでポップな板チョコだが、その裏側では、児童労働や強制労働を根本からなくすための独自の原則があり、それがカカオの調達から製造、販売の過程に組み込まれている。値段はふつうのチョコレートより高いが、「美味しくて、社会を変えるチョコレート」としてオランダ国内売上1位を記録し、Tony’s Factory B.V.(以下、Tony’s)を本社として、他国にも製造販売拠点を持ち、世界的にインパクトを与えている。
「労働搾取のないチョコレートを実現すること」を目標とするTony’sの取り組みのカギとなるのが、Tony’sが掲げる「5つの調達原則」だ。その原則とは、カカオ豆の完全なトレーサビリティ(追跡可能性)を確保すること、生活可能な収入を得られる高価格で買い取ること、農家が協同組合を通じて組織力をつけること、少なくとも5年にわたって継続的に買い取る長期契約、そして農業技術支援による品質と生産性の向上である。
この「5つの調達原則」が特にユニークなのは、現地に農家の協同組合をつくり、その協同組合と長期のパートナーシップ契約を結んで「強い農家」を育てるという視点だ。Tony’sは、農家が生活するのに十分な金額でカカオ豆を取引するだけでなく、協同組合を通じて、農家が農業の専門的な知識や技術を身につけるための支援も行っている。そうすることで、カカオ豆の品質と生産量が上がり、農家はより多くの収入を得られ、チョコレートの美味しさにもつながっているのだ。
Tony’sは、2018年時点でオランダにおける市場シェアがネスレを抜き、国民的チョコレートブランドとなった。そして最も注目すべきは、その売上の一部が確実に農家の生活向上に役立っている点だ。Tony’sの利益率は一般的な大手チョコレート企業と比べ低めの水準だが、これは売上からカカオの代金に充てられてる比率が高いためで、提携する農家に支払われるカカオの取引額は、政府の定める最低価格よりも40%も高い。トニーズ・チョコロンリーの取り組みは、食べる人とつくる人、そのあいだに横たわる大きな「不平等」をどう埋めるかという問いに、実践的かつ創造的な答えを出しているのだ。