失われていく海藻を救い、海藻の食文化を未来へとつないでいく
近年、日本の海では温暖化による海水温の上昇や海流の変化、さらに沿岸開発などが重なり、かつて豊かに広がっていた海藻の生息地が急速に失われている。海藻が減ると収穫量が落ちるだけでなく、そこをすみかとする魚や貝も減り、海の生態系全体が弱ってしまう。
その影響は食卓にもおよんでいる。四国地方で盛んに生産されていたすじ青のりは現在では不作が続き、生産量が激減。かつて地域を支えてきた産業が衰退の危機に立たされていた。
この課題に挑んだのが、海藻の研究を続けてきた蜂谷潤氏である。蜂谷氏は「地下海水」を利用した世界初の陸上栽培技術を開発。地下からくみ上げる海水は清らかで不純物が少なく、年間を通して温度が安定しているため海藻栽培にとても適している。やがて、この技術に目をとめた食品メーカーからすじ青のり生産の依頼があり、事業化の知見を持つ友とも廣ひろ裕一氏と共に、2016年に「シーベジタブル」を設立した。
シーベジタブルは、日本でも珍しい、海藻の研究から栽培、加工、商品開発、販売までを一貫して担うベンチャー企業である。独自の技術を基盤に、料理人や企業との共創を通じて、海藻を「伝統的な食材」から「新しい食材」へと変えてきた。
現在は高知、三重、愛媛、熊本などに拠点を展開、巨大な円形水槽に地下海水を満たし、太陽光を利用して海藻を育てている。海の環境に左右されず通年で安定生産できることが大きな特徴で、事業化初期には食品メーカーと5年間の長期契約を結び、その前払金を設備投資にまわしてリスクを抑えつつ安定した体制を築いた点もユニークだ。
育てた海藻は原料供給にとどまらず、商品化を通じて新しい価値を生み出している。東京に設置した「SEAVEGE-Kitchen Lab」では、社内の料理人が新しいレシピを次々と開発。和食や洋食だけでなく、パンやスイーツにも活用され、ミシュラン3つ星レストランで提供されたり、大手コンビニの商品に採用されたり、国際的な展示会でも発表されている。海藻はいまや、身近で魅力的な食材へと姿を変えつつあるのだ。
だが、同社が目指しているのは単なる食ビジネスの拡大ではない。地域で失われつつある海藻に着目し、陸上栽培によってすじ青のりの安定供給を実現することで、食の可能性と地域産業の再生を両立させようとしているのだ。海藻を持続可能な形で社会に活かしながら、人と海と地域をつなぎ直す。シーベジタブルはその先駆けとして、食の未来に向けた挑戦を続けている。