「社会性」と「経済性」を両立する投資
鎌倉投信は、「資産の形成」だけでなく、「社会の形成」「こころの形成(投資家の満足度)」を投資のリターンとして捉えて投資事業を行っている、投資信託事業者である。通常、個人投資家の従来の投資の第一目的は、資産の形成だ。金融業界はその手助けのためにどれだけ収益に貢献してくれるかという目線で企業を分析し、投資先を判断している。
しかし、鎌倉投信の扱っている「結い2101(ゆい にいいちぜろいち)」という投資信託は、社会の形成を第一目的として「事業を通じて”いい会社”にしか投資しない」「数字に表せないところを見る」と宣言し、従来の金融業界とは一線を画した目線で投資先を決定している。
ここでの「いい会社」とは、社会と調和しながら成長していく会社のこと。鎌倉投信は、投資するに値する「いい会社」なのかを判断するために、社会価値、個性価値、持続的価値の3つの価値基準を使っている。
社会価値は、社会課題を解決する会社かどうか。個性価値は会社固有の独自性、優位性、創造性はあるのか。そして、持続的価値は、持続的に会社を経営するだけの財政力があるかどうかというものだ。
これらの価値基準のもとになっているのが、「八方よし」という考え方だ。八方よしとは、社員とその家族、取引先・債権者、顧客、地域、社会、国、経営者、株主の8つのステークホルダーに対して共通の価値をつくっていく考え方である。
これは、日本の近江商人の心得「三方よし」の考え方を拡張したもの。三方よしは、売り手よし、買い手よし、世間よし、という3つのステークホルダーを対象にするものだった。しかし、これらのステークホルダーだけでは言い表せないほど現代の企業経営は複雑化している。
だからこそ、三方だけでなく、より細かく、かつ多様にステークホルダーを特定し、それらすべての立場と「共通価値」をつくっていくことで、持続可能な経営活動を続けていく必要があるという思いから、この八方よしの考えが生まれた。
また、投資先が本当に「いい会社」かどうかを判断するための取り組みとして、その企業の現場に足繁く通い、実際に働く人の声も聞きながら投資判断をしている。事前の調査には最短で1年もの時間を費やしている。また、投資をおこなった後も、定期的に取材や現地訪問もおこない、当時評価したポイントにズレがないかをみているそうだ。
このように、「いい会社」に投資をすることは、鎌倉投信の経済合理性を成り立たせる理由にもなっている。
というのも、鎌倉投信の「いい会社」への投資を通じたリターンに個人投資家も共感しているため、資産形成のみを志向しない投資行動ができるからだ。
投資家の共感を生み出すカギは、「結い2101」の販売方式にある。
「結い2101」の販売は金融機関に委託せず、「直販」している。直販によって、投資家は「結い2101」の購入時に鎌倉投信と直接対話をする。そこで、鎌倉投信の投資の考え方や、投資先の「いい会社」の活動を知ったうえで購入をする。
鎌倉投信の投資の考え方とは、売却を前提とせず、「いい会社」へ投資を継続して応援することで、社会の形成に資する「いい会社」が成長することを目指すというものだ。
その考え方に納得した上で「結い2101」を購入するという関係性があるので、短期的な資産形成だけを目指すのではなく、長期的に積み立てることで「いい会社」を応援するような投資行動になるのだ。
また、関係性を継続するための仕組みとして、年に1度「受益者総会」を開催している。この会は受益者(投資家)によるボランティアで運営されていて、運用実績の数字だけでなく、「どのように投資したお金が使われたのか」の説明に重点が置かれている。その背景には、受益者たちに「お金だけでは幸せになれない」という考えがあるからだ。
他にも、投資初心者でも投資を始めやすいことも特徴である。
鎌倉投信は投資先のすべての会社を一般公開している。鎌倉投信の思想に賛同した人に購入してもらいたいという願いからだ。これによって、自分の投資先に納得し興味をもった上で「結い2101」を購入しようと思うことができる。
また、「結い2101」は、自分の任意のタイミングで購入する(スポット購入)場合は10,000円から、積立購入では毎月5,000円から資産運用を始めることができる。少額から始められるので、興味を持った後に「結い2101」を購入するハードルが低い。
さらに、「結い2101」は長期の資産形成を前提として設計され、かつ株式市場の価格変動のリスクの半分程度の値動きになるように運用されているため、初心者でもリスクを抑えて比較的安心に始められる。
このように、「いい会社」を応援しようとする関係性を投資家と構築することで長期運用を前提とする投資行動を双方で納得した上で行えるだけでなく、投資を開始するハードルを低くすることでそうした関係性の輪を広げやすくしている。
こうした取り組みによって、鎌倉投信自身も社会性と経済合理性を両立できていると言えるだろう。
なお、近年では、「創発の莟(つぼみ)」というファンドを設立し、スタートアップへの投資もてがけている。このファンドは、鎌倉投信がこれまで「いい会社」に対して投資してきたノウハウを生かし、社会性と経済性を両立した価値を創造できるスタートアップを支援していくことを目指す。2024年3月末時点で18社に投資し、その領域は障がい者の活躍支援、生物多様性、インバウンド、女性活躍など幅広い。