地方の空き家と空きテナントがホテルとなり、街の日常に
都市部への人口集中が続く一方で、多くの地方では過疎化が進み、住めなくなった家屋や使われなくなった商店が増え続けている。放置された建物は老朽化が進み、景観や防災面でリスクとなるだけでなく、地域全体の活気を失わせる要因にもなる。空き家問題は、いまや全国的な社会課題だが、従来は大規模な観光施設や公共整備による解決策が中心で、日常的な地域資源を活かす仕組みに乏しかった。
この問題に「旅」という視点から挑んだのが、2017年にはじまった「SEKAI HOTEL」である。コンセプトは「街全体を一つのホテルに見立てる」こと。空き家や空きテナントをリノベーションして客室とし、飲食は地元の食堂、入浴は昔ながらの銭湯といった具合に、既存の街の営みをホテルの機能に置き換える。観光地化された非日常ではなく、地域の「日常」そのものを旅の価値として提示した。
宿泊者は、観光ガイドには載らない場所を訪ね、地元の人とやり取りする中で、単なる観光客ではなく「町の一員」として受け入れられる感覚を覚える。商店街の食堂での夕食や銭湯での入浴は、地域住民にとって日常の一部だが、宿泊者にとってはかけがえのない体験となる。旅先での特別さと、そこで暮らす人々のあたりまえの時間が交差する瞬間こそが、SEKAI HOTELがつくり出す独自の魅力だ。
さらに、宿泊料金の一部を地域に還元する仕組みも導入した。宿泊客1人あたり200円を積み立て、地域の子ども向けイベントや祭りの運営費への寄付などに充てることで、宿泊そのものが「地域の未来に投資する行為」となる。この仕組みは、旅行者が単なる消費者として滞在するのではなく、地域の担い手と一緒に未来をつくる立場になれることを示した点で、ほかに類を見ないユニークさを持つ。
SEKAI HOTELの取り組みは、空き家の利活用という不動産的課題を超えて、地域の人々と宿泊者の交流を自然に促し、新しい経済循環を生み出している。外部からの人の流れが途絶えがちな地域に、観光という、言葉では語りきれない「関係人口」を増やす効果を持ち、街全体に新たな活力をもたらしている。
同社が目指しているのは、「旅先で出合う地域の日常を味わえる」ことを、特別な体験ではなくあたりまえにする社会だ。観光地ではない場所の魅力を再発見し、そこに暮らす人と訪れる人の関係を再構築する。こうした試みを積み重ねることで、空き家問題に対する持続可能な解決策となるだけでなく、地域社会そのものを元気にする新しい街づくりの形を提示している。