「通年生産」による圧倒的なトライアル&エラーが強み
華やかな香りは、日本酒の魅力のひとつ。原料となる米を磨き上げて、雑味を生み出す成分を取り除き、より香り高くクリアな味わいを目指すのが「純米大吟醸」だ。純米大吟醸のみに絞り込んだラインナップで、ひと際有名なブランドが「獺祭」。フレンチの巨匠の故ジョエル・ロブション氏とタッグを組んでパリに出店するなど、近年のSAKEブームの立役者といっても過言ではない。
元来、酒づくりの世界においては「杜氏」の存在が欠かせないとされてきた。杜氏は、熟練した技術と経験を有する専門家集団であり、酒づくりのシーズンに合わせて外部から招くことが多い。しかしながら「獺祭」を産み出す旭酒造において、杜氏の姿は見られない。担い手の不足もあって、職人技に頼ることなく社内で完結する体制へ切り替えたのだ。
いわば、「素人」による酒づくり。そんな常識を打ち破るチャレンジを支えたのは、徹底したデータ分析とITの活用だった。それまで職人による勘と経験に委ねていた酒づくりの工程を見える化し、数字とマニュアルに基づく作業へと分解していく。こうした取り組みを通して、高いレベルで品質が安定し、気候や季節といった外部環境に左右されない、通年生産が可能となった。通常1人の杜氏が行う仕込みの回数は年間で50回ほどだが、獺祭では1700回を数える。圧倒的な量のトライアル&エラーを経て、より一層データが蓄積され、ますます生産性が向上するという好循環を築いている。
また、獺祭の酒づくりに欠かせない高品質な酒米(山田錦)は生産量が限られており、奪い合いとなりがち。そのため需要に応じた量を供給できず、獺祭はプレミアム化してしまう。これを打破するため、獺祭は、酒米の生産においても、データとITの活用に活路を見出した。富士通と共同で生産マネジメントシステムを導入、酒米の栽培農家と知見を共有し、生産性の向上を図っている。
2018年には、米国のニューヨーク州に拠点を設立し、現地の素材を用いた酒づくりに取り組んでいる。「日本酒」の常識を覆すようなチャレンジに、これからも期待したい。