旧来の球団のビジネスモデルを変革し参入初年度から黒字達成
日本のプロ野球界では長年にわたり、球団と球場の経営主体が異なる形で運営されるビジネスモデルが一般的だった。そのため、球団は試合のたびに球場オーナーに高額な使用料を支払う必要があり、年間数十億ものコストが発生していた。また、広告収入や飲食・グッズ販売といった球場内での多くの収益も球場側に流れる仕組みで、収益の源泉も限定されることから、球団は慢性的な赤字体質に陥りやすかった。しかし当時は、親会社の広告になると考えられていたため、球団の赤字経営は一般的であった。
こうした中、株式会社楽天野球団が運営し、2005年に新規参入を果たした東北楽天ゴールデンイーグルス(楽天イーグルス)は、初年度から球団の黒字経営を目指し、従来の枠組みにとらわれず、球団と球場を一体的に運営する独自のビジネスモデルを導入した。この一体経営モデルは、コスト・収入の両面から経営にメリットがある。
まずコスト面に関して、楽天イーグルスは宮城球場(現・楽天モバイル最強パーク宮城)を所有する宮城県と交渉し、球場の設備拡充やプロ野球規格にするための改修費用および使用料を支払う代わりに、長期的な使用・運営権を獲得した。
これにより、楽天イーグルスは球場を取り巻く複数の収益を球団の直接的な収入源に変えることができた。広告看板の設置料、飲食店・売店の売上、オフィシャルグッズの販売などが球団に帰属するようになり、収益の多角化が図られた。中でも飲食においては、テナント形式ではなく球団が主導して魅力ある店舗を誘致し、売上に連動して収益が分配されるレベニューシェアの仕組みを導入。これにより店舗側の積極的な営業努力も促され、球場全体の売上向上に寄与している。
また、楽天イーグルスのもう一つの強みは、親会社である楽天グループの持つITおよびECのノウハウを球団運営に応用している点にある。需要に応じて観戦チケットの価格を柔軟に変動させる「フレックスプライシング」の導入や、オンラインでのグッズ販売強化など、デジタルを活用したファンとの接点づくりが積極的に展開されている。観戦体験もエンターテインメント性を重視し、グループ観戦向けの居酒屋風デッキ席など、球場での滞在時間そのものが価値となる空間演出が施されている。
こうした取り組みの結果、楽天イーグルスは参入初年度から黒字を達成した。通常、球団運営の初年度は施設整備や人件費、広報活動などで多額の出費が発生し、赤字を覚悟せざるを得ない。しかし、楽天イーグルスはこの常識を覆した。その後も安定した黒字経営を続けており、2024年時点での年間売上は約162億円に達した。
楽天の成功は、他球団の経営戦略にも大きな影響を与えている。日本ハムファイターズは札幌ドームからの移転を決断し、自前の新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」を建設。横浜DeNAベイスターズもスタジアムの運営会社を買収し、球場経営に乗り出した。ソフトバンクホークスも福岡ドームの運営権を取得し、ボールパークの総合的なプロデュースを進めている。いずれの動きも、楽天の一体経営モデルをベンチマークにしたものであり、プロ野球ビジネスの持続的成長に向けた転換点となった。
地域密着型のファンマーケティング、デジタル活用による効率化、そして球場空間の価値最大化。楽天イーグルスの挑戦は、今後の日本スポーツ界全体の成長モデルを考えるうえでも重要な示唆を与えてくれる。