ものづくりの背景を消費者に伝えられる直営店の展開で売上拡大!
日本では古来より、地域の素材と職人技による工芸品が生活に根付いていたが、1980年代からは安くて大量につくれる工業製品や海外品が増えたこと、また、ライフスタイルの変化により、手間と時間がかかる工芸品の需要は急速に減少した。1980年代に約5400億円あった工芸品の産地出荷額は、2000年には約870億円まで縮小。手仕事による少量生産ゆえに価格競争が難しく、各地で工芸品メーカーの衰退が進んでいたのだ。
株式会社中川政七商店は、1716年創業の日本の老舗企業で、奈良で高級麻織物の卸問屋として創業した。2000年代からは麻織物にとどまらず、工芸を軸とする生活雑貨の製造小売業を展開し、職人技と手仕事の美しさを守りながら、現代の暮らしに合った製品を開発している。「中川政七商店」ブランドを通じて全国に60店舗以上の直営店を展開、工芸業界が縮小を続ける中にあっても堅実な成長を遂げ、産業全体の再生を牽引する存在となっている。
こうした成長の背景には、工芸品を現代の消費者に届けるための構造転換がある。中川政七商店は、製造から販売までを自社で一貫して担う独自のSPA(製造小売)モデルを確立。従来のように百貨店などに卸すだけでなく、自社で企画・製造した商品を自ら運営する直営店で販売することで、ブランドの世界観をそのまま届ける仕組みを築いた。
この一貫した構造を土台に、工芸が持つ素材や技術を現代の暮らしにどう活かすかを考え抜く商品企画が進められている。伝統的な技法の美しさや背景を踏まえつつ、使い心地や手入れのしやすさ、インテリアとのなじみ方など、生活者の視点から細部を設計し直すことで、工芸の価値を日用品として受け取りやすい形へと翻訳していったのである。こうした価値編集の積み重ねが、自社ブランドの世界観と品揃えの広がりにつながっていった。
企画から製造、販売までの流れを自社が握ることで、直営店は単なる販売の場ではなく、工芸と生活者をつなぐ接点として機能するようになった。店頭では、工芸品の背景にある素材や技術、つくり手の工夫を伝えながら商品を提案できるため、生活者は「もの」と同時に「物語」も受け取ることができる。こうした場づくりにより、工芸の魅力を体感しながら選べる環境が整っていった。
中川政七商店は、工芸の価値をどのように再編集し、どう届けるかという問いを事業の中心に据え、製造小売の仕組みを磨き続けていた。工芸を現代の文脈に合わせてとらえ直し、生活者の側から見て使い続けたくなる形へとつくり替える営みを重ねることで、のちにさらなる変化へと踏み出していくための基盤が整えられていった。