企業の募集に自治体が手を挙げる「逆」な仕組み
企業が自治体と社会課題に取り組むとき最初に立ちはだかるのが「プロポーザル」の構造だ。プロポーザルとは、自治体があらかじめ課題や仕様を定め、それに対して企業が提案書を提出する制度のことだ。しかしこの形式では、企業が持つ独自のアイデアや技術、社会への問いかけが活かされにくく、柔軟な発想や新しいアプローチを試そうとしても、形式の制約や評価基準が壁になる。
こうした壁を乗り越えるために生まれたのが「逆プロポ」だ。企業が自ら主体となって取り組みたい社会課題を提示し、共感した自治体が提案する。対等な関係で対話を重ねながら共通の問いを深め、具体的な実証へとつなげる新しい官民共創の仕組みである。制度や予算の枠組みに縛られず、フラットに「こういう課題に挑戦したい」と発信できることで、自治体の側も柔軟に応えることができる。
プロセスは4段階。①企業が逆プロポへの参加を検討し、②「誰のどんな不便を解消し、どんな体験を届けたいか」といった問いを事務局と共に言語化する。③その問いに共感した自治体が提案を行い、④選定された自治体と実証に取り組む。特に②の設計は、企業の想いや提供価値を言葉に落とし込み、自治体との接点を見出す重要な工程だ。共通言語を持ちプロジェクトをはじめられることが成功の可能性を高めている。
実際に生まれたプロジェクトは多岐にわたる。蓄光技術とエンタメを活用して子どもの登下校の安全を守ったり、物流の知見から防災備蓄品の管理や分配を効率化したり、消防や介護施設の協力を得て夜間の救急搬送を減らしたりと、技術や仕組みだけでなく、地域や人々とのつながりを生む設計が重視されている。こうした取り組みは短期間で実証から検証まで進み、他自治体へと展開されるケースも増えている。
背景には自治体と企業とのあいだの「進め方」と「判断軸」の違いがある。自治体は公共性や公平性を重視しつつ、年度予算や議会承認などの制約の中で動く。一方、企業はスピード感や先行投資、事業性を前提に判断する。このギャップを従来の官民連携では十分埋めきれなかった。逆プロポはそうした前提の違いを認識してあらかじめ双方の立場を可視化し、合意形成を支援する伴走体制が整っている点でも特徴的だ。また、逆プロポは単体のマッチングサービスにとどまらず、周辺サービスも拡充してきた。2022年には自治体側の課題を整理し、共創可能なテーマに翻訳する「逆プロポ・コンシェルジュ」が誕生。2023年には自治体の現場から集めた生の声を整理した社会課題データベース「逆プロポVoice」や、官民共創に挑むスタートアップを支援する「ソーシャルXアクセラレーション」も開始している。
いずれも共通しているのは、「場のデザイン」「 意思決定のデザイン」「お金のデザイン」の3つをていねいに組み込んでいる点。自治体にとっては、限られた予算の中で柔軟に挑戦できる機会となり、企業にとっては、仕様書に縛られず、スピード感を持って現場とつながるチャンスになる。共創のハードルを下げながら、実践の可能性をひらくこの仕組みは、今後ますます注目されていくだろう。