京都の美意識を日常に届ける、時代を超えて愛される商品
京都は古くから舞台芸能や映画などの文化が盛んな土地で、化粧や装いに関わる職人技も集まっていたが、舞台化粧を扱う店や化粧道具の職人たちが華やかな装いを陰で支えている環境の中、金箔づくりに使われていた和紙が持つ、肌の余分な脂をやさしく吸い取る性質が知られるようになる。そして1920年代、映画関係者から「撮影中のテカりをどうにかしたい」という相談を受けたことをきっかけに、特殊和紙を活用した「あぶらとり紙」が誕生した。現場の課題と職人の技術が結びついたこの商品は舞台裏の実用品として重宝され、やがて日常の身だしなみ道具としても広まっていった。
「よーじや」の創業は1904年。舞台化粧などを扱う「國枝商店」としてはじまり、京都の街でも顔なじみの店として親しまれていた。創業当初の主力商品の一つである楊よう枝じ(現代の歯ブラシ)にちなんで、地元の人々から「ようじやさん」と呼ばれていたことが、現在の屋号の由来である。芸能の盛んな土地柄に支えられ、舞台関係者や一般客のあいだで信頼を積み重ねながら、化粧品や日用雑貨を扱う店として地元に定着。戦中・戦後の混乱期も文化と共に歩み、世代を超えて愛される“街の日用品店”として親しまれてきたのである。
転機が訪れたのは1990年代。テレビドラマであぶらとり紙が紹介され、「かわいい」「 使える」「 京都らしい」と評判を呼び、全国的な人気商品へと成長した。携帯性のよさと和のデザイン性が人々に共感され、観光客が旅の思い出と共に持ち帰る定番土産として広まっていったのだ。よーじやは、祇ぎ園おんや清きよ水みずなどの観光地に直営店を展開し、季節ごとにデザインを変える限定品や、京都の自然や文化をモチーフにしたパッケージを開発。旅行者が「京都らしさ」を感じながら手に取る体験そのものが、ブランドの魅力となっていった。
2003年には「よーじやカフェ」をオープンし、ロゴ入りのラテアートやスイーツを通じてブランドを体験できる空間を創出。観光地の喫茶文化に新しい要素を加え、店舗そのものが“写真に撮りたくなる場所”として注目を集めた。そして2010年代にはインバウンドの波が押し寄せ、よーじやも外国人旅行者に向けた多言語対応を整え、京都ブランドの象徴として知られるようになった。
こうしてよーじやは、舞台の現場で生まれた実用品から、観光客が“京都らしさ”を手に取る体験を提供するブランドへと進化した。あぶらとり紙という小さな商品に、職人の技と文化、そして時代の観光経済が交差し、地元に根差しながら京都の魅力を外向きに伝えていく。その構造こそが、長く続くよーじやの原動力となっているのだ。