生産以外の業務の改善で、おいしい梨づくりと経営の両立を実現する
阿部梨園は、栃木県にある家族経営の梨農園である。現在は3代目が経営を引き継ぎ、個人農園から株式会社ABE HOLICとして法人化している。もともと大きくて高品質の梨づくりで定評があったが、2014年から始めた経営改善により、2017年には直売率99%を達成するなど、経営面でも成果を上げている。その背景には、梨づくりに情熱を捧げる3代目と、日々の業務を改善しつづけたマネージャーのタッグがあった。
阿部梨園では、「量より質」を大切にしている。1本の木から採れる梨の数をあえて抑え、その分、1個あたりにたくさんの栄養を行きわたらせることで、大きくて甘い梨を育てている。また、土づくりや枝の剪定を丁寧に行い、受粉も蜂ではなく手作業で行うなど、細かな部分にまでこだわっている。こうした取り組みにより、阿部梨園の梨は贈答用としても喜ばれ、百貨店や郵便局のカタログギフトでの取扱数も伸びている。
しかし、どれだけ品質が高くても、生産だけでは農園の経営課題を解決することはできなかった。阿部梨園が抱えていた課題は、「経営や雇用をどうしたらいいかわからない」「スタッフが長く働き続けてくれない」「毎日休みなく働いているのに思ったほどの収入が得られない」といった悩みだった。こうした課題は阿部梨園だけでなく、多くの小規模農家が直面している共通の課題であった。
そこで、2014年から取り組んだのが、梨の生産以外の業務を効率化する改善活動だった。新たにマネージャーが加わり、経営管理や会計、人事などの業務を効率的に整え、販売やお客様対応においては、お客さま目線での工夫を重ねた。改善の内容は、「備品の購買ルールを決める」「従業員のユニフォームをそろえる」「店頭の商品の並べ方を変える」といった小規模でも実行可能なものが中心だった。3年間で500件以上の改善を重ねた結果、業務の効率が上がり、経営基盤が安定した。
これらの改善により、2017年に阿部梨園の梨はほぼすべてが直売で完売するようになった。一般的に果樹園で生産された果物の多くは、卸売業者を通じて販売されるため、直売は珍しく、販売効率も利益率も高い一方で、消費者への直接的なアプローチが必要である。しかし、阿部農園は生産以外の業務を効率化し、顧客対応にも力を入れたことで、新規顧客やリピーターを着実に増やすことができた。
さらに、阿部梨園はこれらの改善ノウハウをウェブサイトで無料公開している。農園経営に役立つ300件の事例を掲載した「知恵袋」は、「変わりたいけど、どうしたらいいかわからない」という悩みを持つ多くの農家が参考にしている。また、どのような業界でも取り入れられる内容のため、他の業種など垣根を超えて多くの人々の反響を呼んでいる。
日本の農業は、後継者不足や気候変動による影響など多くの課題を抱えている。しかし、阿部梨園の事例は、経営改善の工夫によって持続可能な農業経営を実現できる可能性を示している。同農園を支えたマネージャーは「課題の山は成長のポテンシャルだ」と語り、今後も農家がより良い経営と生産を両立できる方法を模索している。こうした取り組みが広がることで、持続可能な農業が次世代へと受け継がれていくことが期待される。