店員が製品を積極的に売らない理由
「b8ta(ベータ)」は製品を販売しながら、ベータテストと呼ばれる製品の運用試験を行うことができる小売店。米国西海岸のサンフランシスコなどに9つの店舗を持ち、店内にはKickstarterやIndiegogoといったクラウドファンディングから生まれた画期的な製品が多く並んでいる。VR(仮想現実)が体験できるゴーグル、ドローン、電動スケートボードなど見ているだけでワクワクするような製品ばかり。
利用客は常に最先端の製品に直接触れることができ、製品を気に入ればその場で注文することもできる。店内の天井にはカメラが設置されており、視線を計測するアイトラッキングや画像解析などの技術により複数の角度から利用客の動きや、製品まわりでの手の動きなどを検出することができ、「興味を持った」「気づきを得た」「実際に手に取って試した」顧客数を集計できる。
b8taの面白いところはそれだけではない。たとえば、あなたが一般的なアパレルショップで服を買おうと店内の商品を見ているとき、そのショップのスタッフは商品をすすめてくるだろう。しかしb8taのスタッフは、自ら話しかけてくることはほとんどしない。「商品を積極的に売ることをしないスタッフがいる小売店が成立するのか?」と思うかもしれないけれど、同社の場合はそれが成り立つ。なぜなら、メーカーは製品を販売して利益を得ることよりも、スタッフが利用客から自然な形で聞き出した質問、購入意向、買わない理由などの情報を得ることが目的になっているから。そうした状況をつくり出すために、b8taではメーカーに対して製品の出品料を月額固定制としている。それにより、スタッフは商品をすすめる必要がなくなったのだ。
得られた良質な定性データはチャットツールで24時間以内に、定量データはWebシステムにより、ほぼリアルタイムでメーカーのもとへ届けられる。こうしてb8taに製品を出品したメーカーは、商品の改良やマーケティングを効果的に実施できる。
b8taのこうした仕組みは高く評価され、スタートアップだけでなく大手企業も出品し、ソフトバンクのPepper(ペッパー)の米国進出の際のマーケティングでも活用された。