スターからのメッセージを商品化し、ファンにとって忘れられない瞬間をつくる
従来、ファンとスターの関係は一方向の消費体験に限られていた。SNSなどを通じたファンからの応援は一方的なコミュニケーションで、スターが個人のファンに直接声をかける機会はほとんどなかった。また、俳優・歌手・スポーツ選手達の収入源は出演料や広告契約などに偏りがちで、パンデミックやライフイベントによって仕事が減ると、収益が不安定になるリスクがある。インフルエンサーなどの場合も、InstagramやTikTokから得られる収入だけで生活を送れている人は一部に限られる。このように、ファンとスターの間には「距離」と「収入」の2つの壁が存在していた。
こうした状況の中で、米国のBaron App, Inc.はオンライン上のマーケットプレイスを運営し、ファンが俳優やアスリート、ミュージシャン、インフルエンサーなどの有名人に動画メッセージを依頼できるCameoというサービスを提供し始めた。Baron App社は立ち上げ当初、収入が不安定な引退アスリートや拡散力のあるインフルエンサーに着目し、1ドルという低価格からサービスを開始した。知名度が高くなくても購入するファンが一定数いたことから、タレントにとって隙間時間を活かせる副収入の手段となり、次第に高単価の有名人も参加するマーケットとなった。
Cameoの利用手順はシンプルだ。利用者は自身の名前などの情報と、希望するタレントを選んでメッセージ内容を入力し、スターにリクエストを送る。スターは通常7日以内に動画を撮影してCameoにアップロードを行う。急ぎの場合は24時間以内に納品されるオプションも追加できる。完成した動画は購入者に直接届けられ、家族や友人と共有して感動を分かち合うことができる。料金はタレントが自由に設定し、Cameoは1件あたり約30%の手数料を受け取る仕組みだ。
Cameoはスターからのメッセージを「商品」として成立させ、ファンには忘れられない体験を提供している。一方、動画を受け取ったファンは自身が感極まる様子をSNSなどで共有するため、タレント側に「誰かの人生に感動を届けている」という実感をもたらした。
コロナ禍で、人々が自宅待機を余儀なくされ、誕生日や卒業式などのイベントが激減した際には、スターからのメッセージを通じて大切な日を特別な形で祝う需要が高まった。その影響もあり、2024年末時点でCameoは累計800万件以上の注文を受け、タレントへの累計支払いは3億1,000万ドル以上の収益に達した。しかし、外出制限の緩和やライブ活動の再開とともに、人気スターの空き時間が減少し、サービスの利用は一時的に停滞した。
これを受けてCameoは、2024年12月に「CameoX」という新しい方針を導入した。従来はCameoのスタッフが事前審査したスターのみ参加できたが、新しい方針では本人確認を済ませれば誰でも登録が可能となり、YouTubeやTwitchのような開かれたマーケットプレイスへと移行した。これにより、18ヵ月間で3万1,000人超のクリエイターが新たに登録され、15万5,000件以上の動画が制作された。
Cameoは動画メッセージ以外にもサービスを拡大し、2022年には最大10分間のグループライブ通話ができる「Cameo Live」を開始し、ファンがスターと友人を招いてバーチャルパーティーを開き、スターと交流できる機会を提供した。さらに、企業向けの「Cameo for Business」では、企業がタレントへマーケティング動画や社員向けメッセージを依頼できる。タレントはCameo for Businessに登録するだけで、企業からオファーが届き、個人向けよりも高単価での設定が可能となっている。
こうして、Cameoは動画メッセージ・ライブ通話・企業向けマーケティングの3本柱で“ファンとスターを直接つなぐプラットフォーム”としての位置づけを確立し、日常のささやかな祝い事から企業広告まで幅広いシーンで活用されている。