福祉的就労支援の課題にチョコレートで変革を起こす
日本の障害者雇用の現場には、長年の深刻な課題がある。就労継続支援B型事業所(雇用契約に基づく就労が難しい人が対象)に通う、障害のある人の平均工賃は、月1万5000円前後にとどまっている。利用者が自分のペースで働ける利点はあるものの、最低賃金が適用されないため、生活の自立にはほど遠い水準だ。働く意欲があっても十分な収入を得られない現実をどう変えていくかが大きな社会的課題となっていた。
その状況を変えようと動き出したのが、一般社団法人ラ・バルカグループだった。当初はパン工房を立ち上げ、障害のある人が働きながら収入を得られる場づくりを試みた。しかし、パンづくりは工程ごとの作業内容が複雑で、仕上がりにバラつきが出やすい。高温のオーブンを扱うためやけどの危険もあり、分担の難しさや安全性の問題から理想の環境を実現するのは容易ではなかった。
そこで着目したのがチョコレートである。チョコレートは高単価で労働生産性が高く、正しい素材を正しく使えば美味しい製品がつくれる。また、チョコレートは40~50℃程度までの温度で加工でき、パンのように高温を扱うリスクがない。失敗しても再び溶かしてやり直せる柔軟さがあり、作業を細かく分担しやすい。型に流し込む、トッピングを載せる、包装するといった多様な工程があり、それぞれが自分に合った役割を担うことができる。こうした特性が「つくる過程で誰も排除しない」働き方のデザインに適していた。「久遠チョコレート」は、この素材の可能性を最大限に活かし、障害のある人とない人が共に働ける仕組みを積み上げてきたのである。
現在では全国60以上の拠点を展開、約830人が製造や販売に携わり、その半数以上を障害のある人たちが占める。商品は百貨店や商業施設でも販売され、福祉の文脈を超えて一般の市場に受け入れられている。
さらに、久遠チョコレートでは売上の多くを働き手に還元し、従来の福祉的就労では得られなかった水準の収入を実現。重度の障害がある人でも月5万円以上、中度や軽度の場合はフルタイムで月17万円に達している。これは障害者雇用における賃金の全国平均と比べても圧倒的に高く、「障害者雇用は低賃金があたりまえ」という固定観念を覆している。
2021年には重度障害者が働く「パウダーラボ」を開設。粉砕や袋詰めなどの工程を細かく分担することで、より多くの人が安全に作業できる仕組みを整えた。久遠チョコレートは、制度のすき間に置き去りにされてきた人々に経済的な自立の道をひらき、「誰も排除しない」考え方を具体的な事業として体現している。障害のある人の働き方に新しい選択肢を提示し、日本社会における「共に働く」ことの意味を改めて問い直している。