携帯通信会社が独自の代理店ネットワークを使って運営
M-PESA(エムペサ)は、2007年にケニアの通信会社Safaricomによって開発されたアフリカのモバイルマネーサービスだ。銀行口座を持たない人が多いアフリカにおいて、携帯さえあれば誰でもお金を扱えるサービスとして広がっている。とくに都市部で働く人が地方の家族に生活費を送るというニーズにマッチし、現在は、Safaricomと南アフリカの通信会社Vodacomとで、アフリカ8ヶ国にて展開されている。
M-PESAの使い方は簡単だ。携帯電話を持つユーザーは、全国にある代理店にて電話番号をIDにM-PESAの口座をつくり、そこに現金を預け入れて電子マネーをチャージする。誰かに送金する場合は、M-PESAのサイトやアプリから、相手の電話番号と送金額を入力すれば瞬時に送金することができる。送られた側は、自身の携帯に届いた通知をもとに、最寄りの代理店で自身の電話番号を伝えれば現金として引き出せる。店舗などに支払う場合は、電話番号ではなく店指定の7桁の数字を入力すれば、店舗側のM-PESAの口座に入金される。
このような仕組みで、M-PESAでは電気代や水道代、学校の学費まで支払えるほか、現在は預金サービスや小口融資も提供している。2025年時点で、月間アクティブユーザーは5,100万人を超え、年間で3,140億ドルの取引にも及んでいる。
こうした普及を支えているのは、SafaricomとVodacomの通信網と、それを取り巻く巨大な代理店ネットワークだ。もとから、アフリカでは銀行口座やクレジットカードを持つ人は少ないため、携帯電話やスマホの通信料は、携帯販売店や委託を受けた小売店などで払ってから使うプリペイド式だ。こうした代理店が、M-PESAの口座開設や入出金業務を担うようになった。その数は60万店以上あり、これらが銀行でいうところの窓口やATMのような役割を果たしている。このように、携帯電話さえあれば使える手軽さと、地方まで張り巡らされた代理店網が、アフリカの広範な地域に金融のアクセスをもたらした。
なお、M-PESAはもともとSafaricomが英国のVodafoneの資金提供を受けて開発したサービスだが、2020年からはSafaricomとVodafone傘下のVodacomが共同出資で「M-PESA Africa」という新たな事業体を設立した。こうした協力体制により、現在、M-PESAはケニアからタンザニア、レソト、コンゴ民主共和国、ガーナ、モザンビーク、エジプトへと広がっている。
M-PESAはもはや単なる送金サービスではない。送金、決済、貯蓄、ローン、保険、そして海外送金と、日常の金融行動をまるごと包み込むプラットフォームとなりつつある。スマートフォン対応のアプリ開発はもちろん、さまざまな技術進化とともにビジネスモデルも更新されている。API公開による他社サービスとの連携も進み、M-PESAは「金融インフラ」であると同時に、「プラットフォームビジネス」としての顔も持つようになっている。
現金からデジタルマネーへの移行という大きな流れの中で、M-PESAが築いた仕組みは、今後も世界中の新興国にとって一つの参考となり続けるだろう。