移動が伴う生活上の課題を、"疎"な社会でどう支え合うか?
人口減少と高齢化が進む中で、人と人、人とサービスの距離が広まり、暮らしが“疎”になりつつある。かつて徒歩圏にあった交通の結節点が遠のき、日常の移動に時間と労力がかかるようになっている。たとえば、学校の統廃合で通学距離が延び、徒歩や自転車では通いづらい子どもが増えている。放課後には習い事の送迎が家庭の大きな負担となり、家族の生活リズムにも影響が出ている。公共交通の維持が難しくなる一方で、免許を返納した高齢者は買い物や通院など日常の移動が課題となることがある。こうした移動の不自由さは、世代を超えて暮らしのつながりを弱める可能性が問題視されている。
こうした課題に対し富山県黒部市で立ち上がったのが「Community Drive Project」だ。行政・企業・住民が立場を越えて対話し、「地域の移動はみんなでつくる」ことを目指す取り組みである。プロジェクトでは、地域の動きを加速させる人材を「コミュニティ・ドライバー」と呼び、日常の移動や助け合いを自分事として考え、周囲を巻き込みながら小さな実装を生み出していく人を発掘・育成している。住民の主体性と合意形成を起点に、仕組みそのものを再設計していく点が特徴だ。
このプロジェクトの起点となったのは、黒部市社会福祉協議会から派生して2022年に設立された「SMARTふくしラボ」である。プロジェクトマネージャーの小柴徳明氏は、20年以上にわたって社会福祉協議会に勤務し、介護や生活支援の現場で多くの住民と向き合ってきた。その経験から、地域によって介護サービスを受けられる人と受けられない人が生まれるという構造的な課題に直面した。たとえ同じ介護保険料を負担していても、中山間地域では事業者の移動距離が長く採算が合いにくく、送迎ができないことがある。小柴氏は、こうした移動の課題に対し、福祉の分野だけでなく地域全体でどう解決していくかを模索していた。
この課題意識に、建築・都市デザインの知見を持つ日建設計と、社会構造を図で可視化してきた図解総研が合流。この3社を中心に2024年度、国土交通省のモデル事業として採択を受け、黒部市をモデルケースに実証に取り組んだ。住民の課題感や移動実態をていねいに集め、見える化して共有。各地で行われる交通や移動サービスの実証実験は、補助金期間が終わると継続されないケースもあり、利用者が定着しないまま終了してしまう課題も指摘されている。こうした現場の実情を踏まえ、3社は技術やサービスからではなく、住民の主体性と合意形成を出発点に据え、対話・調査・可視化を同時並行で進めた。
この連携は、社会環境デザインを推進する日建設計の社内共創プラットフォーム「PYNT」での議論を経て発展してきた。黒部市での成果をもとに、2025年度以降、他地域への展開を進めている。