実物大の象が問いかける、人と自然の共存の形
南インド・ニルギリ地域では、外来植物ランタナの繁殖が課題となっていた。トゲが多く成長の早いこの植物は、一度広がると森を覆い尽くし、在来植物の再生を妨さまたげる。そのため森林の多様性が失われ、土地の環境は大きく変わってしまうのだ。こうした変化は野生動物にも影響をおよぼし、とりわけ象にとっては深刻である。食べ物や通り道が減ったことで人里に現れるようになり、畑を荒らすなど人間の生活と衝突を起こす。農作物の損失や人身事故が起きるたびに、ランタナも象も地域の人々から「厄介な存在」と見なされてきた。
「The Elephant People」は、これら2つの課題を切り離して考えるのではなく、むしろ結びつける発想をとった。外来種ランタナを伐採し、乾燥させた茎を素材に実物大の象の彫刻をつくる。害として扱われてきた植物を資源に変え、脅威とされた動物を象徴として表す。この組み合わせ自体が、課題を価値に転換する仕組みとなっているのだ。
制作は地域の人々が担い、特に女性の参加が大きな役割を果たしている。伐採、素材加工、骨組み、編み込みなど複数の工程を分担しながら1体ずつ仕上げていく。参加者には地域水準を上まわる報酬が支払われ、暮らしを支えるのと同時に、誇りを持って取り組める仕事となる。制作の過程は単なる作業にとどまらず、技能の習得や協働を通じて地域の結びつきを強める機会にもなっている。さらに、ランタナの伐採そのものが森林の回復を促すため、雇用と環境保全が自然に結びついた仕組みとして働いているのだ。
完成した象は公共の空間で展示される。自然素材でつくられた実物大の象は強い存在感を放ち、人と自然の関係を考える契機となる。そして、展示が終わった象はチャリティオークションなどを通じて流通し、その収益は再び制作や森林保全に充てられる。これによって制作費や参加者の賃金をまかなうと共に、活動を継続させる資金の循環がつくられているのだ。
購入は芸術的な価値だけでなく、活動の背景や意義への共感と結びついている。作品を手にすることは、所有にとどまらず、活動を支える行為としての意味も持っていた。こうした共感を伴う流通の仕組みが、活動の継続に欠かせない役割を果たしている。
The Elephant Peopleの取り組みは、害とされた植物と脅威とされた動物を結び直し、地域の雇用と環境保全を同時に実現する循環を生み出している。
伐採から制作、展示、販売、再投資までが一体となった流れは、課題を課題のままにせず新しい価値へと組み替える構造を示す。この仕組みは、環境と社会の双方に働きかける持続可能なモデルとして機能しているのだ。