使われない空き家を滞在拠点に変え、収益と地域の交流を生み出す
2018年当時、日本では人口減少と高齢化が進み、全国で別荘などを除く約348万戸の空き家が社会問題化していた。空き家は老朽化や災害リスクを抱え、地域の衰退につながる懸念が強まっていた。一方、若年層を中心に「地方と関わりたい」との声が高まり、観光などの一過性の関係を超えて地域課題の解決に関与する「関係人口」や、2拠点・多拠点居住への関心が高まっていた。
また、同年「働き方改革関連法」が成立し、長時間労働の是正や柔軟な働き方の推進が制度的に進められ、ライフスタイルの多様化を後押しした。さらに都市部では、人間関係の希薄化に伴い孤独や孤立が課題として注目され、コミュニティを重視した暮らし方への関心が高まっていた。
こうした社会的背景のもとで登場したのが、2018年設立の株式会社アドレスが、2019年にサービスを開始したサブスクリプション型多拠点生活サービス「ADDress」である。利用者となる会員は、月額料金を支払うことで全国の古民家やシェアハウス、リノベーション済みの住宅を拠点として利用できる仕組みだ。創業時は、月額4万4000円で全国の拠点に住み放題の定額制プランが提供されており、利用者は自由に移動しながら暮らす新しいライフスタイルを実現できる。
このADDressの特徴は、宿泊施設を提供するだけでなく、利用者同士や地域との交流を促進する仕組みにある。各拠点にはWi-Fiやデスクが整備され、リモートワークやワーケーションに適した環境が整うと共に、共同スペースで自然な交流が生まれる。また、各拠点には「家や守もり」と呼ばれる管理者が配置され、単なる管理にとどまらず、地域と利用者をつなぐ役割を果たしている。家守には、物件所有者自身が務める「オーナー家守」、物件に住み込みながら管理を担う「住込み家守」、近隣に住みながら関与する「通いの家守」があり、それぞれが地域情報の提供やイベントの企画を行い、地域に根差した体験を利用者に提供する。
収益の流れは、会員が支払う月額料金から、オーナーへの賃料と家守への委託料を差し引き、残りがADDressの収益となる仕組みだ。リノベーションにかかる初期費用は物件オーナーが負担するものの、1部屋あたりの投資額は比較的少額で済むため短期間で回収できる。さらに、リノベーションはプロのクリエイターが建物の歴史や地域の文化に配慮しながら計画を立てて進めるため、オーナーは安心して参画できる仕組みとなっている。
ADDressは、人口減少や空き家の増加など地域の課題に対し、住まいの流動化と関係人口の創出を通じて、新たなライフスタイルの可能性を提示するという理念のもとで誕生した組織だ。単なる宿泊サービスにとどまらず、空き家の再活用や地域コミュニティの再生、利用者の暮らし方の多様化を同時に促進する仕組みとして注目を集めている。