事業収益と寄付で運営する全寮制ホスピタリティ職業訓練プログラム
ベトナムの急速な経済発展の陰で、家庭環境や経済的な事情により学校に通えず、路上で生活せざるを得ない若者が少なくなかった1990年代末。都市化と格差拡大の中、親を亡くしたり家庭の支えを失った若者たちは、生計を立てるために物売りや雑用などの不安定な仕事に就かざるを得なかった。社会保障や教育制度の仕組みが届きにくく、基礎教育や職業訓練を受ける機会も限られ、安定した仕事に就くことや未来を描くことが難しい状況にあった。
そうした境遇にいた若者たちに、学ぶ機会と自立への力を届けたいとの思いから、オーストラリア育ちのベトナム系社会起業家ジミー・ファム氏は1999年、ハノイに小さなサンドイッチ店を開く。路上の若者に、実践を通じたトレーニングと支援を行い、自らの手で未来を切り拓くきっかけをつくったことが「KOTO」の原点だった。KOTOという名前には「Know One, Teach One(一人に出会ったら、一つ何かを教える)」という理念が込められ、学びの連鎖を通じ、困難な状況にある若者たちが次の誰かを支える存在に成長していくことを目指している。
この取り組みはやがて、ホスピタリティ業界に特化した、全寮制2年間の職業訓練プログラムへと発展。ホテルやレストランといった現場で必要なスキルのトレーニングを中核に据えつつ、英語やIT、金融リテラシーに加え、ライフスキルやメンタルヘルス、コミュニケーション力の育成といった内容にも力を入れたものとなっている。
KOTOでは、年間150人前後の若者が無償で教育・住居・食事を得ることができ、卒業時には国際的に認定された資格を取得。卒業後の就職率はほぼ100%に達し、多くがホテルやレストランで安定した収入とキャリアの機会を得ている。
プログラムの費用は、飲食業を中心とする社会的企業(レストランやケータリングサービス)の運営による事業収益と、企業・個人・財団からの寄付や助成金の組み合わせでカバーされている。特に、訓練生の実践の場でもある直営レストランはKOTOの理念を社会に発信する役割も担っており、そこを訪れる客は「Dine with Purpose(社会貢献になる食体験)」を通じて、KOTOのプログラムに参加する若者たちの人生の支援者となっているのだ。
KOTOの成長を支えてきたのは「共創関係」にあるステークホルダーたちの存在だ。もともと資金提供していた寄付者が単発支援から長期的パートナーへと支援を発展させたパターンや、資金だけでなく専門分野の知見や他の支援者の紹介をつなげたパターン、さらにはプログラムの卒業生たちがKOTO Aアルムナイlumni Community(KAC)のメンバーとして、現学生のメンターや卒業生の雇用主、あるいはKOTOへの寄付者として関わり続けている。こうしてKOTOは、支援・教育・雇用・消費が循環する“共創型エコシステム”を築き上げてきたのである。