見えない漏水を衛星データとAIで「見える化」する
日本の水道管は老朽化が進み、全国の自治体が運営する水道局では漏水や断水、水質の低下といった問題が深刻化している。漏水が増えると水が大量に失われ、水道事業の収入も減る。断水が起これば住民の生活に直結し、水質が悪化すれば健康への不安も広がる。
水道管点検は、作業員が水道管沿いを歩き、音や振動を頼りに漏水を探す方法が主流だ。これまでは人間の経験をもとに調査をしていたため、時間も費用もかかり、すべての水道管を調べるのは現実的ではなかった。こうした課題を解決するために、株式会社天地人は、衛星データとAIを活用した漏水リスク診断システム「宇宙水道局」を開発。水道管の老朽化リスクを効率よく見つけられるようにし、水道インフラが次世代に受け継がれることを目指している。
天地人は2019年に設立された。JAXAで人工衛星開発に携わっていた百ひゃく束そく泰俊氏と、地上データを使ったビジネスを進めていた櫻庭康人氏が出会い、宇宙のデータを社会課題の解決に活かすことを目指して会社を立ち上げた。創業当初は、衛星データや地理情報、独自のアルゴリズムを組み合わせたWebサービス「天地人コンパス」を開発。農業や土地評価などに活用され、たとえば衛星の気象データと農家が持つ水田情報を組み合わせ、米の栽培に適した土地を選定するといった成果を上げてきた。
初期の天地人は200を超える顧客ニーズのヒアリングを行い、農業、防災、気候変動など幅広い分野で可能性を探った。その中で、ある水道局から「地下の漏水を見つけてほしい」と依頼があったことを転機に社会インフラに注力し、2023年に正式サービスとして提供開始。水道局が持つ水道管の位置や材質、敷設年度、過去の漏水記録に加え、地形や地質のデータ、衛星から得られる地表面温度や地盤の動きなどをまとめてAIで分析し、漏水リスクを地図上にわかりやすく表示できるようになった。
解析結果は100m四方の区画ごとに5段階で色分けされ、水道局はリスクの高い場所を見つけることができる。実証実験では豊田市上下水道局と協力し、診断で高リスクとされた249区域を調査。そのうち77か所で漏水を確認した。従来の方法に比べ、点検費用は最大65%、調査期間は最大85%短縮できることが示され、この成果は第7回インフラメンテナンス大賞で厚生労働大臣賞を受賞するなど高く評価されている。
宇宙水道局は、老朽化が進む水道管のリスクを効率的かつ正確に見える化し、住民の安心・安全な暮らしを支える新しい仕組みとして注目されている。これは、宇宙と地上のデータを組み合わせ、社会インフラを守る方法を示す先進的な取り組みである。