途上国の素材・職人技術を最大限に活かしたものづくり
多くの新興国や開発途上国では、製造環境や流通体制が十分に整っていないため、製品の品質にバラつきが生じやすく、高品質なものを安定的に届けるのが難しいケースが少なくない。その結果、消費者が製品そのものの魅力で購入するのではなく「支援のために」買う形になりやすく、販売の拡大に限界があった。また、価格も低く抑えられることが多いため、経済性を保ちにくいという課題もあった。
この課題に向き合うのが、2006年にバングラデシュで創業した「マザーハウス(MOTHERHOUSE)」だ。マザーハウスは途上国の天然素材や伝統技術を活かし、現地の職人と共に上質な製品を生み出すファッションブランドである。「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念を掲げ、ものづくりを通じて現地の雇用創出や職人の技術と誇りを高めることを目指している。
創業者の山口絵理子氏は大学で開発学を学び、「現場を知りたい」との想いから、当時のアジア最貧国バングラデシュを訪れた。そして、そこでコーヒー袋として使われる天然素材ジュート(黄麻)と出合う。環境にやさしく強度が高い素材に可能性を感じた山口氏は、ジュートで高品質のバッグをつくりたいと考えるようになる。苦労しながら約半年かけて工場を探し、自分でデザインして職人と共に手を動かし、160個のバッグを完成させたことがブランドのはじまりだった。
現在もマザーハウスでは、デザイナーが素材の選定・デザイン・製造まで深く関わり、職人と対話しながら商品を生み出している。この過程が職人の技術や可能性を最大限に活かしたものづくりを可能にし、途上国でも高品質な製品を生み出し続けている。
素材の開発力も大きな強みだ。2007年の商品リニューアル時にはジュート素材でしかできない表現に向き合い、山口氏自身も職人と共に試行錯誤を繰り返した。その結果、デザインをフォーマルラインからカジュアルラインに切り替え、売上は旧作の10倍に伸びた。
また、「モノを届けるのがゴール」という精神を持ち、ものづくりだけでなく顧客に届けるまでを一貫して担う点もマザーハウスの特徴だ。創業初期はウェブサイトと卸先での販売が中心だったが、顧客と直接対面する機会が少ないことに課題を感じ、2007年、東京の下町・入いり谷やにマザーハウス初の直営店をオープン。店舗空間にもこだわり、内装も自分たちで担当した。ブランドの社会性に共感する顧客が訪れ、売上は好調だった。
こうした複数の特徴・強みによって、途上国でも高品質な製品を生み出し、社会性と経済性を両立した途上国発のブランドを実現している。