地域の企業が自ら出資して運営までを担う宿泊モデル
香川県三み豊とよ市は父ちち母ぶヶ浜がSNSで話題となり、年間50万人以上が訪れる観光地となった。しかし、当時の市内には宿泊施設が少なく、多くの観光客が日帰りで帰る状況が続いていた。宿泊施設の必要性は地域で共有されていたが、大規模ホテルを外部資本で建設することには抵抗があった。地域外の資本が入れば利益や意思決定が外へ流出し、地元の主体性が損なわれかねないと懸念されたのだ。そこで、地域の未来を自らの手でつくるべく、地元事業者が中心となり、共同で出資して宿泊施設を立ち上げる構想が生まれた。
こうして2021年、地元企業を中心とした11社が出資し、瀬戸内ビレッジ株式会社を設立。2000坪の土地に、一棟貸し宿泊施設「URASHIMA VILLAGE」が開業した。建物は県産材や伝統技法“焼杉”を活用し、地元の工務店・建設会社が施工、家具も地元の大工が手づくりした。外にはサウナやビーチを備え、食事には地元スーパーが提供する海の幸を用い、送迎や体験ツアーは地元交通事業者が担う。リネンクリーニングすら木材加工会社が新規事業として引き受け、清掃以外のほぼすべての業務を地元企業が担当する仕組みを築いた。これにより、宿の売上は地域内で循環し、雇用や新事業の創出にもつながった。
このモデルの特徴は、資本・運営・意思決定のすべてを地域の主体が担っている点にある。一般的な宿泊事業では、資本提供者、運営者、地元住民が分離され、外部資本と外部運営会社による分業が主流だ。それに対しURASHIMA VILLAGEは、地域の人々が「オーナー」であり「経営者」であり「実行者」でもある三位一体の構造を実現した。宿は単なる観光インフラではなく、地域の経済・文化・誇りを体現する拠点となり、住民にとっても“自分たちの宿”という帰属意識を醸成している。
開業はコロナ禍と重なるも、一棟貸しという形態が家族やグループ旅行の需要と合致し、高い稼働率を維持。2023年夏には稼働率7割を超え、4年目からは出資者への配当も開始された。この成功を受け、三豊市では観光以外にも、交通、教育、不動産などの分野で地元企業による共同出資の動きが広がった。たとえば2022年には、地元タクシー会社3社を中心とする関連企業13社が出資し、地域交通を担う「暮らしの交通株式会社」が設立されている。
URASHIMA VILLAGEは、よそ者に頼らず地域が自ら資本を出して運営を担い、利益を循環させる宿泊モデルを確立した。その影響は三豊地域にとどまらず、全国の地域活性化において地域主体で宿をはじめるという選択肢を具体化した先駆的事例となっている。